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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)1898号 判決 1949年12月24日

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差戻す。

理由

弁護人若林清の上告趣意第二点について。

刑法第二四一條前段の強盗強姦罪は、強盗犯人が強盗の機会において婦女を強姦することをその要件とすること所論のとおりである。しかるに、原判決は被告人が判示馬場幸子を強姦する際強盗の犯意があった事実は認定しなかった許りでなく、却って同女を強姦し終った後強盗の犯意を生じ同女からその所持金十五円を強奪したという事実を認定しているのである。

しからば、被告人の判示行為は右強盗強姦罪に該当しないことは明らかである。尤もこの点について原判決は「被告人の行為は婦女を強姦し、その畏怖に乗じて金品を強取したもので、犯情の点において他人を畏怖させて金品を強取したものがその畏怖に乗じ婦女を強姦した場合といさゝかも異らないから強盗強姦罪を構成する」と説明するのであるが、それは原審の誤れる見解と云わねばならぬ。けだし被告人の行為が強盗強姦罪を構成するかどうかということゝ、その犯情が強盗強姦罪と同じであるということゝは自ら別の事柄である。原審が婦女を強姦した後その畏怖に乗じて更らに同女から金員迄も強奪した被告人の本件犯行を、その情状において強盗犯人が婦女を強姦した場合といさゝかも異らないとするものであれば、その点は被告人に対する量刑上十分に考慮すれば足りるのである。次に又、強盗強姦罪は強盗罪と強姦罪との結合犯であるから、強姦罪と強盗罪に該当する行為とが同一機会に行はれさえすれば強盗強姦罪を構成するというのであれば、それは結合犯の概念を正解しないものと云うの外なく到底採用に値しない。

以上のとおりであるから、原判決の確定した被告人の本件所為は強姦罪と強盗罪との併合罪をもって処断すべきところ、強姦の点については昭和二十二年八月九日告訴の取消があったことは本件記録により窺われるのであるから、或はこの罪について原審は旧刑訴法第三六四條第五号により公訴棄却すべき場合であったかも知れない。

以上これを要するに、被告人の本件所為をもって強盗強姦罪に問擬した原判決は、判決に影響を及ぼすことの明白な法令違反があるか又は理由齟齬の違法あるものというべく全部破棄を免れないものと云わねばならない。

よって、爾余の論旨に対する判断を省略し、なお右の違法は事実の確定に影響を及ぼすものであること明らかであるから、刑訴施行法第二條、旧刑訴第四四八條の二を適用して主文のとおり判決する。

この判決は全裁判官の一致した意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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